風太郎の日記

日々感じたことや、出来事などを書いていきます。

「汚れた魂」 小説⑨

9 腐っていく瞳

 その日麗子が帰って来るのを待った。僕は怒りとも言えない、ショックを伴った精神状態でいた。今はまだ九時。あと、三、四時間は帰っては来ない。胸が苦しい。いや、そんなありきたりの苦しさではなかった。すべてが裏切られた。何度も見たその雑誌は、すでに僕に開かせることは出来なくなっていた。
 ガチャガチャ。
ドアの鍵を開ける音がした。僕の胸はすさまじい速さで脈打つ。
「ただいま。」
ドアを開けて入って来た麗子が言った。
僕は雑誌を彼女の目の前に突き出した。麗子は一瞬びくっと体を縮まらせた。
「これなんだよ。」
そう言いながらしおりのはさまってるページを開いて見せた。彼女は自分の裸体に目を落とし、じっと黙っている。
「これお前だろ。」
しばらく沈黙した麗子は「うん。」と一言うなづいた。
 僕は麗子の左頬を引っ叩いてしまった。
「いつからだよ。」
声を荒げて聞いた。
「いつからだよ!」
「最近。」
麗子はうつむいたままそっと答えた。彼女の顔は死んでいた。
パシッ!もう一度左の頬を叩いてしまった。麗子は静かに僕を見上げると、
「まだ三回しかやってない……。」
そう消えそうな声でつぶやいた。僕は怒りを消そうとした。これが事実であってほしくなかった。けれど現実。麗子が言った「三回」という言葉だけが僕を救った。そう、無かった事にすればいいのだ。
「分かった。もう二度とやらないでくれ。」
僕の声には力がなかった。愛した子が風俗で働いていたことを知ったのだから無理もなかった。

 次の日の朝。僕は顔を洗い、彼女のローションをつけにドレッサーに向かった。ローションをつけ終わると、おもむろに鏡を見た。そこに映ってる目は死んでいた。そして次の日も次の日も、どんどん僕の顔から生気が失せていくのが分かった。