風太郎の日記

日々感じたことや、出来事などを書いていきます。

「汚れた魂」 小説⑧

8 突然の衝撃

 引っ越しの当日、僕は沙央里と会った。
以前から約束していた携帯電話を買ってもらうためだ。
ドコモのショップに二人で出向いた。
「これがいいんじゃない?」
沙央里は二つ折りにするタイプの携帯を指差したが、僕はどれでもよかった。
「じゃあ、それにするよ。」
ショップを後にしながら彼女は言った。
「これでいつでも圭佑さんと連絡が取れるね。」
屈託のない笑顔でそう言った。
僕は何も罪悪感を持たなかった。既に麗子と暮らし始めるというのに、他の女の子に高価な携帯電話を買ってもらう……。常識から考えたら出来ない行為だろう。けれど、沙央里は僕と付き合っていると麗子に言っているらしい。そして、他の男と僕を天秤にかけている事も。
僕が律儀になる理由はないと思った。付き合うとも言った事はないし、好きだとも言った事はない。お互い割り切った関係だと思っていた。その日、沙央里と食事をしながら結構な酒を飲み、酔って新しい生活の場へと向かった。
 家へ着いた僕に、麗子は何も言わなかった。まだ片付いていない部屋で二人はベッドへ入った。

 ある日の昼下がり、僕と麗子は映画を観たいねとどちらからともなく言い、映画館へ足を運んだ。
ちょうど、ジョニー・デップの「ドンファン」がやっていた。伝説のプレイボーイを描いた映画だった。
映画を観終わると、麗子は用事があると言い渋谷の映画館で別れた。
 バスに乗って家へ着くと、僕は冷蔵庫からコーラを出し飲み始めた。
そして今日観た映画のパンフレットをめくり読んでいた。
 その時、自分の携帯電話が無い事に気付いた。
(しまった。麗子のバッグに入れておいてもらったままだ。)
まだ持ち始めたばかりの自分の携帯の番号を覚えてはいなかった。仕方なしに、またパンフレットに目をやった。
 その日の夜麗子が帰って来た。
「お帰り。」
僕がそう言うと、麗子は笑顔を見せて
「ただいま。」
と言った。
「あのさ、携帯麗子のバッグに入れっぱなしだったでしょ。」
「うん。ずっと鳴ってて。出たら沙央里だった。」
「えっ。電話出たの。」
「何回も鳴らすから圭佑君かと思って。」
 僕は少し頭にきた。人の電話を勝手に出るとは。けれど、たいした事には思わなかった。
あの子は彼女ではない。僕は軽く聞いた。
「で、何だって。」
「うん……。何で麗子が圭佑君の携帯に出るの、って。それで、会って話がしたいって。」
「マジで。」
「仕方ないから、分かったって言った。」
僕は面倒くさい事になったなと思った。
「そっか。でも付き合ってる訳じゃないから。」
「でも、彼氏だって沙央里は言ってた……。」
 完全に思い違いをされている。けれど何度もこういう経験はあった。
仕方ない。麗子にちゃんと話をさせよう。

 翌日、麗子は沙央里と会いに行った。
その日の午後僕達が借りているマンションに麗子は戻ってきた。
 なんだか浮かない顔をしている。
「何だって、沙央里。」
「怒ってたけど、話したら分かってくれた。」
「なんだかめんどくさい女だな。他に男いるんだろ。」
「うん。私には、圭佑君にしようか、別な男にしようか迷ってるって話してたから……。」
「自分の事を棚に上げてそれかよ。」
「でも、これですっきりしたからいいじゃん。」
麗子は笑顔を作りながら僕に言った。

 しばらく何事もなく平穏に暮らしていた。そんな日の夕方、部屋のチャイムが鳴った。
「はい。」
「沙央里だけど。」
 僕は一瞬神経がピンと張った。何故沙央里がこの部屋を知っているんだ。この部屋を教えた覚えはない。怪訝な顔をしてドアを開けた。すると紗央里は、
「これ見て。」
と雑誌を僕に手渡してきた。ポカンとしたままで僕はその雑誌に目を落とした。
 それはよくコンビニなどで見かけた風俗の雑誌だった。そこに一枚の栞がはさまっている。そのページを開けてみた。するとそこには、裸で腹の出た親父と絡んでいる麗子が写っていた……。
 僕は一瞬気が遠のき、何度も何度もその数ページを見、体から力が抜けていくのが分かった。それは間違いなく麗子本人だった。
「わかった。」
僕はそうとだけ言い、ドアを閉めようとした。沙央里は
「じゃあね。」
と言うとドアに背を向け帰って行った。