風太郎の日記

日々感じたことや、出来事などを書いていきます。

「汚れた魂」 小説⑥

6 行方は分からず

 僕は仕方が無いので、仕事が決まるまで実家に居させてもらう事にした。
 すぐ出て行くのが条件なら義理の父親も文句を言うまい。
 仕事はすぐに見つかった。
建設会社での仕事だ。彼女と寮に住んでもいいとの話だった。
僕はすぐに麗子に連絡を取り、仕事と住む場所を見つけた事を伝えた。
 嬉しさでちょっと飲みたい気分だった僕は、母親が飲みに行っているスナックに誘われると快く承諾した。
「お前ももう成人したんだから、きちんと落ち着くんだよ。」
「分かってるよ。」
半分自信。半分は嬉しさ。きっとそんな顔で答えたのだろうと思う。
飲み始めて二時間くらい経っただろうか、僕のベルが鳴った。見ると麗子からだった。
 すぐ近くの公衆電話まで行き、麗子の携帯に電話を掛けた。
「もしもし。」
「あ、圭佑君。」
「どうしたの。」
さっき話したばかりなのにまた連絡してくるなんておかしいと思った。
「やっぱり一緒に住めない……。」
僕は無言になった。
「やっぱり彼とは別れられないの。」
「そっか。仕方ないね……。」
 あっさりしていた。元々女の人なんて信じていなかった。
 母親が家を出て行ってから、きっと僕は女性なんてものを信じて生きてこなかったのだろう。
それは麗子に対しても例外ではなかった。
「分かったよ。それじゃ。」
「ごめんね……。」
プー。プー。プー。
あっけなく終わった。たった数日の恋だった。
店へ戻ると僕は焼酎をストレートで一気飲みした……。 

 

 ふと我に返った。
沙央里と二人で入った喫茶店の中。
沙央里から受け取ったお金をポケットに僕は、
「もう帰るよ。」
そう言い残して気だるく立ち去った。
結局仕事はしなかった。紗央里はただの金づるだった。女子高生からお金を貰っても何とも思わない。いや、逆にそういう自分に酔っていた。


 一カ月ほど経ったある日の昼下がり、ふと僕のベルが鳴った。
 その時僕にはもうすでに彼女がいた。その彼女からだろうとベルのディスプレイに目をやるとなんと麗子からだった。
 すでに実家に一カ月も世話になっている。でも、僕はお構いなしに家の電話を使った。
(トゥルルルルルル…。)
「もしもし。」
久しぶりに聞く可愛らしい声だ。でも心なしか暗く感じた。
「久しぶり。」
僕は努めて明るく言った。
「元気にしてた。」
そう彼女は僕に聞いてきた。
「元気だよ。麗子はどうだった。」
「うん……、ちょっと色々あってね……。」
「どうしたの。」
「彼に凄い殴られて……。」
「マジで?!」
「うん……。」
「大丈夫?今から行くから!」
「駄目だよ、彼、圭佑君との事で凄く怒ってるから。」
「ばれたの。」
そう僕は麗子に聞いた。
「ばれたっていうか。言ったの。」
僕は早く麗子を連れ出さないといけないと思った。

 友達に車を借りに行った。
「悪い。今日中には返すから。」
「いいよ、それより大丈夫かよ。」
「ああ、何とか連れ出してくる。」
僕はそう言い、友達の白いスープラに乗り込んだ。
産業道路から首都高速に上がり、麗子たちのいる原宿を目指した。道は途中までスムースに車を走らせた。けれど浜崎橋のジャンクションで、案の定渋滞していた。
僕はイライラし出す。
けれど、こればかりは仕方がない。諦めて車が流れ出すのをただ待った。やっと渋滞を抜け渋谷の出口を降りた。
 マンションの前に着くと急いでエレベーターに駆け込んだ。こんな時はエレベーターの動きも遅く感じて焦らせる。ドアが開くなり飛び降りた。
「ピンポーン。」
ドアチャイムを鳴らした。けれど全く返事がなかった。
「ドンドンドン。」
今度はドアを叩いた。しかしまた静まり返っている。
いないのか。そう考えたけれど、いないはずはないと思った。
「麗子!いないのか!?」
僕はドアを叩きながら叫んだ。しかし何の返答もない。頭にきた僕は、足でドアを蹴り始めた。
「ドン!ドンドン!」
5分ほど経っただろうか。やっと麗子が顔を出した。
「ちょっと。」
僕は麗子に促されてマンションの外へと出て行った。
「本当に怖いから。」
「関係ないよ!それより殴られたって、大丈夫なの!?」
「うん。それより早く帰って……。」
「俺が言ってやるから部屋にあがらせて。」
僕は興奮状態でそう麗子に言った。
「駄目だよ。今日は帰って。」
仕方がないと思った。相手は恋人同士。他人がそこまで言えない。
「じゃあ、必ず連絡してね。」
「分かった。連絡する。」
二人は約束を交わし僕は車に乗った。バックミラーに部屋着で立っている麗子を見た。とても小さい彼女が心配で仕方がなかった。

 次の日の夕方。黄昏にせまる夕陽を実家の庭先でビールを片手に眺めていた。ふとポケットベルが鳴った。麗子からだった。あの後大丈夫だったのだろうか。そう思いながら電話を掛けた。
「もしもし。」
「あ、もしもし。」
麗子の声だ。
「大丈夫だった?」
「うん。ごめんね。」
「それより、もうあの部屋は出た方がいい。」
僕はきっぱりと言った。
「私もそう思うの。」
なんだか意外な答えだった。彼とは別れられないと言っていたのに。
「これから会える。」
僕はとっさに聞いた。
「うん。夜なら……。じゃあ、私川崎まで行く。」
珍しく麗子が僕の住んでる所まで来てくれるらしい。「改札の前に時計台があるからそこに六時でいい?」
「わかった。」

僕達は静かに電話を切った。

僕は六時五分前に改札口の前にある時計台に着いた。周りは沢山の人達が誰かを待っているようだ。年配の人間は丸椅子に座っている。中にはホームレスらしき人もいる。居場所が無いのだろう。ざわざわとした場所に立ち改札の出口を麗子を探して見ていた。
一際目立ったオーラを放った女の子が出口を出ようとしているのに目が行った。麗子だ。
僕は右手を軽く上へあげた。
麗子も手を振っている。
「こんばんは。」
彼女は笑顔を作った。愁いを帯びた笑顔だった。僕は胸が苦しくなった。こんなか細い少女が、精一杯の笑顔を作っている。けれど瞳は泣いていた。
「圭佑君、元気。」
僕が黙っていたので麗子は心配したのだろう。
「ああ、元気だよ。」
僕も決して上手ではない笑顔で答えた。
「とりあえず飲みに行く?」
「そうだね。居酒屋でも入ろうか。」
僕はそう言いながら東口へと歩き出した。何を話していいか分からなかった。麗子の右側を半歩下がりながら映画街のビルにある居酒屋まで連れて行った。
席に通された二人は、とりあえずお疲れ様と言いお酒を口に運んだ。
「オレ、彼とは別れた方がいいと思う。」
「うん……。」
「でも、どうして急にオレと会う気になったの。」
「忘れようとしたけれど、忘れられなくて。」
「そっか。」
ちょっと嬉しさが込み上げて来るのが分かった。付き合っている彼女はいるけれど、やっぱり麗子の事が好きだった。この気持ちはどうしようもできない。二人が二、三杯お酒を飲んだあたりで僕はふと言葉を漏らした。
「もう、あのマンションには帰らないでほしい……。」
「わかった。」
これでやっと麗子といられる。ただそれだけで良かった。先の事など何も考えていない。いいんだ。これでいいんだ…