風太郎の日記

日々感じたことや、出来事などを書いていきます。

「汚れた魂」 小説④

4 公衆電話からのSOS

 あれから2週間が経った。
僕は半年以上も家賃を滞納していてとうとうボロアパートを追い出されてしまった。
 とりあえずの荷物は実家に預かってもらうことにした。
何も考えていなかった僕は、とにかくどこか泊まらせてもらう所を探し始めた。
 けれど、周りで一人暮らしをしている友達はいなかった。
ふと、一人の年上の女の人を思い出した。電話帳を開き、公衆電話まで行き番号を押した。「もしもし。」
彼女が出た。
「あ、もしもし。圭佑だけど。」
「あー!久しぶりー。どうしたの。珍しいじゃん。」
明るく対応する彼女に泊まらせて欲しいとは言いづらかった。
けれど、他に思い当たらないのでここは言うしかなかった。
「あのさぁ、悪いんだけどちょっとそこに泊まらせてもらってもいいかなぁ」
「え!?いいけど……。二、三日くらいしか無理だよ。」
「うん、助かる。じゃあ今から行っても平気?」
「オーケー。じゃあ駅前で待ってるね。」
「わかった。今から向うから一時間位だと思う。」
「バイバイ。」とお互いに言い電話を切った。
上野でイラン人がよく売っていた、女の子から貰った偽造のテレフォンカードを引き抜いた。

目黒から乗り換えてすぐの駅に年上の女の子のアパートはあった。
僕は商店街を抜け涼子というその子の家に辿り着いた。
チャイムを鳴らすと
「はーい。」
と元気な声を出しながら涼子はドアを開けた。「ごめんね、行くとこ無くなっちゃって。」
「いいよ気にしないで。二、三日しか泊めてあげられないけど。」
「いや、助かるよ。ありがとう。」
僕は彼女に言った。
「食事まだなんでしょ?今何か用意するから。」
そう言いながら少し狭いキッチンへと彼女は向かった。
僕はベッドに腰掛け、しばらくボーっとしていた。
これからどうしよう。ただ漠然と考えていた。
家を失い、お金もあまりない。どう考えてもいい状況には思えなかった。

「はい。」
と涼子はトーストや果物を持って来てくれた。僕はミルクを飲みながら食べ始めた。
「ねぇ、これからどうするの。」
「うーん、わかんない。」
僕は他人事のようにさらりと言った。
けれど、心の中では焦りを感じていた。
(ここにも二、三日しか居られない。どうしよう……。)
「ここに住まわせてあげる事は出来ないから。ホントにごめんね。」
「ううん。大丈夫だよ。」
僕は笑顔で答えた。

その日の夜。涼子はクラブで手に入れたという何か紙状の物を引出しから出して来た。
「何、それ。」
不思議そうな目で見ながら聞くと、
「LSD。」
そっと声を小さくして涼子は答えた。
「へぇー。これがLSDなんだ。」
僕はLSDはやった事がなかった。
LSDとは、いわゆる幻覚をもたらす作用がある違法な薬物だ。いきなり火事が起こった様な幻覚を見てマンションの高い階から飛び降りて死んでしまう人もいる。
そんな話を本で読んだことがあった。
「これを舌の上に乗せて舐めてみて。」
僕は言われるままにそうした。

しばらくすると、変な感覚が僕の精神を襲って来た。
涼子もそれを口に入れた。
なんだかハイテンションになって来たのが分かる。
「ねぇ。カラオケ行きたい。」
僕がお金なんて持っていないのは分かっているけれど、涼子は、いいよ。と言ってくれた。

二人で部屋を出ると、騒ぎながら歩き始めた僕に
「ちょっと!そんなに騒がないで!」
と涼子は僕を戒めた。
「捕まったらどうするの。」
とても警戒しているようだ。
「そっか、ごめん。」
僕はなんだか少しテンションが落ちてカラオケへと向かった。
カラオケに着きお酒を頼むと、涼子はなかなか歌い出さない。
「歌わないの?」
「うん、カラオケって来ないんだ。」
そうだ。涼子はクラブが大好きでカラオケで騒ぐようなタイプではないんだ。
僕は仕方なく涼子に合わせ、お酒と会話を中心に歌は殆んど歌わなかった。
その中でサザンオールスターズの曲を歌った。
「たまにゃMaking Love、そでなきゃHand Job……。」
僕が歌い終わると涼子はビックリしていた。
「どうしたの?」
「え、だって歌詞が……。」
「何?」
「Hand Jobって、自分でする意味なんだよ。」
そう涼子は答えた。
男が自分の手でオナニーをするという意味だという。
涼子はアメリカの大学に留学し、英語は相当できた。
(そういう意味だったんだ。)
凄い事を歌詞にするものだと感心した。

涼子のアパートに帰ると二人とも薬物とお酒のせいで酔っていた。
「じゃあ、下で寝てね。」
「うん。」
僕はそう答えるとベッドの横に空いているかすかな空間に敷かれた布団に入った。
 しばらく寝ようと頑張ってみたけれど、隣に女性がいると思うと僕の気持はそわそわし出した。
 そっとベッドへと手を掛けた。
 涼子も分かっているらしく、僕の手に自分の指を絡めてきた。
 胸を触り僕達はその行為へと移って行った。
 彼女はアメリカで経験をしている為か、日本人の女の子とは思えないようなセックスをした。
 パイプベッドの頭の上を掴み激しく腰を揺らす。
 「もうイキそう。」
僕が射精しようと抜いたとたん涼子は腰を自分の腹部へと押しつけた。
自分の腹部と涼子の腹部の間でペニスを擦りつけ、僕から出たものはベタベタになり二人を繋いだ。

三日目を迎えた朝、涼子は仕事へ行く支度をしていた。僕は既に着替えて小さな丸い椅子に座っていた。着替えたといってもチェック柄のハーフパンツを穿いただけだ。朝食のパンとフルーツ、あとはミルクを用意しながら涼子は言った。
「ごめんね圭佑くん。今日からはちょっと泊まらせてあげられないんだ……。」
「分かってる。大丈夫だよ。」
僕は笑顔で答えた。
一緒に部屋を出て駅へと向かう商店街を歩いていた。
「ホントに大丈夫?」
「うん、どこか探すよ。」
涼子には外国人のボーイフレンドがいる事は知っている。たまに部屋に遊びに来ているらしかった。けれど僕は敢えてその事には触れなかった。はっきり言ってしまえば涼子に対して恋愛感情があるわけではなかった。そこで僕はいちいち聞く必要がないと感じたのだ。
目黒まで着くと僕達は反対方向の山手線へ乗り、別れた。
地元の駅へとりあえず戻った僕は、本当は行く場所がないことを実感し不安感に襲われた。
誰か泊まらせてくれる人はいないのか……。

「そうだ。」
僕はこの間会った麗子の事を思い出した。
もしかしたら、今彼が帰って来てなければ泊まらせてくれるかもしれない。
公衆電話へと向かい、アドレス帳を開いた。
(こ。高坂麗子)
公衆電話にカードを入れ、家の電話へ掛けてみた。
何度目かの呼び出し音で彼女が出た。
「はい、もしもし。」
「もしもし。圭佑だけど。」
「あ、久しぶり。どうした?」
「久しぶりー。元気?」
「うん。何とか……圭佑くんは?」
「実はさぁ。住む所無くなっちゃって。」
僕はなるべく努めて明るく言った。
「えー!?どこも行く所無いの?」
「うん。どこも当てが無くてさ……。」
暫く考えた麗子は。
「じゃあ、うち来る?まだ彼帰って来てないし。」
僕は助かったという気持ちと嬉しさの混じった声で「うん。」と答えた。